ラホール城・鏡の宮殿

ラホール城最大のみどころ、鏡の宮殿
シャー・ジャハーンが建てた妃ムムターズの居間
まるでおとぎの国のような美しさ
2015年1月訪問

正面から見た鏡の宮殿


鏡の宮殿「シーシュ・マハル」はラホール城の北西角に位置する宮殿で、17世紀にムガール帝国5代皇帝シャー・ジャハーンが愛妃ムムターズの居間として建てたものです。荒廃したラホール城の中で最も保存状態が良く、ムガール帝国の栄光を垣間見させてくれる場所でもあります。

5代皇帝シャー・ジャハーンはタージ・マハルを建設した皇帝として有名です。
愛妃ムムターズが亡くなるときに、「私のために世界で一番綺麗なお墓を造ってちょうだい」と言い、建てたのがタージ・マハルだという話も残っています。
そのムムターズのために、シャー・ジャハーンが建てたのが、この鏡の宮殿。彼女の私室はタージ・マハルとは別の美しさで満ちています。

こういった話だけだと、まるでシャー・ジャハーンが女にうつつを抜かした大金持ちの馬鹿皇帝かのように思えますが、元々、シャー・ジャハーンは祖父である3代アクバル大帝に幼いころから才能を評価され、英才教育を受けた人物。
実際、シャー・ジャハーンは皇帝となってから、デカン高原を征服し、領土を広げ、ムガール帝国が最も安定した繁栄期を築きました。

シャー・ジャハーンの時代の建築物はタージ・マハルを始め、みな美しく、ムガール建築の最盛期と言って良いと思います。ラホール城の特別謁見室の白大理石の建物も美しいですが、この鏡の宮殿はより自由でおとぎ話の宮殿のよう。

もっとも、シャー・ジャハーンがムムターズにべた惚れだったことは間違いないようです。ムムターズとの出会いは、皇子だった15歳の時、ムムターズはまだ12歳。ペルシャ系貴族の娘ムムターズに一目ぼれしたシャー・ジャハーンは5年後にムムターズと結婚し、正妃とします。

17歳で嫁いだムムターズは常に王に寄り添います。4代皇帝の晩年に皇位継承を巡る争いが起きた時は、シャー・ジャハーンは戦いと逃走を5年もの間繰り返すこととなりますが、ムムターズは幼い子供たちと共にシャー・ジャハーンの逃避行に同行しました。その後、皇帝となってからの戦いの際も、彼女は皇帝の遠征に常に同行しながら、生涯で14人もの子供を産みます。
ムムターズが36歳で産褥熱で亡くなったのも皇帝の遠征に同行していた時のことでした。二人の絆は尋常ではないほど深かった気がします。ラホール博物館にあった二人の肖像画を載せておきます。ムムターズは可愛い系の美人ですが意思が強そうですね。

5代皇帝シャー・ジャハーン
 
 ムムターズ


鏡の宮殿の説明に戻ります。
鏡の宮殿の案内図があるのは左下の写真のあたり。
でも、左下の写真のゲートをくぐると右下みたいな光景。
   

右の写真は裁判所だった場所。あれ・・と思いますが、この裏手が鏡の宮殿。横に入口があります。


正面から見た鏡の宮殿


中庭の中央には噴水があり、わかりにくいですが浅い池になっています。

鏡の宮殿に近づきます。


入口は白大理石の柱とアーチ。庇部分は赤砂岩でしょうか。


少し前までは中に入れたということですが、今は柵があって入れません。
柵越しに見た鏡の宮殿。綺麗。



角度を変えて撮ってみました。壁や天井で輝いているのは全て鏡。



内部の様子。本当に美しい。


この鏡の宮殿は、シーシュガリと呼ばれる工芸技法によって無数の鏡の小片が張り合わされています。昼でも美しいですが、夜はランプやろうそくの光が鏡の小片に反射し、より一層美しかったとのこと。素晴らしく幻想的な美しさだったことでしょう。夜空の星のようだったとも言われます。中庭の池に写る月明かりも部屋を輝かせたとか。繊細かつ華麗な美意識の結晶といった印象です。


 中央部分。奥に透かし模様の窓
 横にも小さな透かし模様の窓

本当に綺麗。きれい。キレイ。

壁の模様は規則的なようで微妙に変化が付けられています。
下の方には様々なフレスコ画が描かれています。



ところどころ落剝はありますが、素晴らしい保存状態。
   


天井部分
青が美しい。宝石なのかペイントなのか。
近くで見れないのが残念。



繊細な美意識は柱にも見られます。宝石・半貴石による象嵌が残っていました。

   



鏡の間の左隣も宮殿となっていて、更に中庭を囲む形で部屋が続きます。



鏡の宮殿左隣の部分
2階建てになってます。2階は赤砂岩でしょうか。
 
 内部の様子。美しい装飾が残っています。


中庭を囲む形で左側に折れた部分。
天井が綺麗に残っています。
 
 青を基調にした部屋。

だいぶ傷んではいますが、かっては品の良い部屋だった気がします。


更に続いて白大理石のかわいい小館。

ナウラカー



現地ガイドさんによるとナウラカーはムムターズが外を眺めるために建てられたもの。「ナウラカー」の意味について、地球の歩き方では「9人のラク」という意味とありましたが、現地ガイドさんによると「90万ルピー」の意味で、この小館を建てるのに莫大なお金がかかったということを意味しているのだそうです。この小館には黄金・宝石が贅を尽くして使われているんだとか。90万ルピーと言えば、確か、4代皇帝の妃ヌール・ジャハーンの年金が年20万ルピーでしたから、その4.5年分。よく分からないけど、たぶん、凄い金額なんでしょう。

ナウラカー内部
白大理石の透かし彫りに見事な象嵌。上で光っているのは黄金か鏡か・・・。



 外から見たナウラカー。床も見事。
 天井部分。鏡や黄金それに宝石?


傷みが目立つものの、中央部分だけでなく両端の部分も見事。
 


柱にも見事な象嵌が残っていました。宝石・半貴石が埋め込まれています。



なんというか「ムムターズのためには金を惜しまない」っていう印象を受けます。でも、決して成金趣味にならず、素晴らしい芸術に昇華させているのが、ムガール帝国最盛期の力なんでしょう。

シャー・ジャハーンはムムターズの死後、人が変わったようになってしまい、それまでは賢帝とされていたのに多くの女性を側室にして乱れた生活を続け、ついには体を壊してしまったといいます。
それにより次期皇帝を巡る争いが生じ、シャー・ジャハーンはアーグラ城に幽閉され、ムムターズの眠るタージ・マハルを眺めて生涯を閉じました。6代皇帝となったのはムムターズの産んだアウラングゼーブ。シャー・ジャハーンがタージ・マハルに葬られたのは彼の両親への愛情でしょうか。皇帝となったアウラングゼーブはラホール城に向き合う形でバードシャーヒ・モスクを建て、モスクに通じるアラムギリ・ゲートを建設しました。


ナウラカーの横はベランダ。


このベランダからの眺めは素晴らしい。

中央はバードシャーヒ・モスク。左側にアラムギリ・ゲート。


バードシャーヒ・モスクもアラムギリ・ゲートもムムターズの死後の建設。
したがって、ムムターズはこの景色を見ていないのですが
この素晴らしい景色は鏡の宮殿に似合ってます。


ともかく素晴らしいの一言に尽きる鏡の宮殿
鏡の宮殿を見るためだけにもラホール城に来る価値あり。


パキスタンの遺跡に戻る

南アジアの遺跡に戻る



参考文献

ユネスコ世界遺産⑤(講談社)
世界遺産を旅する8(近畿日本ツーリスト)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。