エローラ(仏教・ジャイナ教寺院)

インド西部にある石窟寺院エローラ
7世紀ころ仏教の石窟寺院が最初に造られ始めました。
その後、10世紀ころまでヒンズー教・ジャイナ教の寺院が造られ続きました。
3つの宗教の石窟寺院の数は全部で34にもなります。
2001年5月、2006年1月訪問

写真は仏教寺院の美しいレリーフや石像


34窟あるエローラ石窟寺院群のうち、1〜12は仏教寺院、13〜29がヒンズー教寺院、そして30〜34がジャイナ教寺院となっています。エローラで最も有名かつ素晴らしいのが第16窟のカイラーサ・ナータ寺院であることは間違いありませんが、仏教寺院やジャイナ教寺院も、なかなかに個性的です。



仏教寺院

仏教寺院群はエローラの南端にあり、エローラで最も早い6世紀から7世紀にかけてのころ作られ始めたという説が有力。衰退期にあったアジャンタから移動してきた石工や仏教徒が作ったとも言われているようです。

仏教の石窟寺院には、僧たちが生活をしていた僧院(ヴィハーラ)と、礼拝所である塔院(チャイティヤ)がありますが、12あるエローラの仏教石窟寺院は、第10窟以外は全て僧院(ヴィハーラ)となっています。


第1〜第4窟



第1窟から第4窟は比較的小さな僧院が並んでいます。
第1窟は非常にシンプル。第2窟は仏像が多く彫られていますが、規模としてはあまり大きくありません。第3窟と第4窟は未完成・作りかけの石窟のようです。

これらの石窟は、内部の奥に本尊が置かれ、入口や外壁に仏像が彫られているものの、どちらかというと、みな簡素な印象を受けます。


第5窟



第5窟は結構大きな僧院です。奥行きは33m。かなり広々とした空間です。
床にはベンチなのかテーブルなのか、写真のように直線状に一段高く彫り残されたものが何本も並んでいます。
ここは僧たちの集会所もしくは食堂だったのだろうと言われています。つまり、ここで説法が行われたり、僧たちが食事をとった場所ではないかというわけです。

ちょうど修学旅行中のインドの生徒さんがたくさんいましたが、それでも広々としてたので、かなりの数の僧が入れたのではないでしょうか。


第6〜9窟

第6窟は見事なレリーフが多く、結構、見ごたえがあります。
女神像は、非常に腰高で、胸と腰が豊かで、ウエストはあくまでも細く・・・・グラマーを通り越した姿をしています。こんなに色っぽい女神・女性像が仏教寺院に彫られていいんでしょうか。

   

エローラの石窟が作られた7・8世紀という時代は、仏教にヒンズー教の影響が強まり、密教化した時代。これらは極めて初期の菩薩の姿ということなのでしょう。
女性の孔雀明王、壷を持った菩薩なども見どころです。

第7窟から第9窟は似たような石窟が続きます。


第10窟

第10窟はエローラで唯一の塔院(チャイティヤ)です。



入り口からして2階建て。
2階にはアーチや飛天が彫られています。美しいですね。
アーチは礼拝所のしるしなんだそうです。




この塔院はヴィシュワカルマ窟と呼ばれています。

完成度が高く、インドで最も優れた塔院(チャイティヤ)と言われているのだそうです。

中はアジャンタの塔院と基本的には同じ作りです。

U字型に彫られていて、天井は高く、ドーム状になっています。
アーチ状の天井には木造構造を模してリブが彫られています・

そして、柱がずらりと窟の形に添ってU字型に並んでいます。

そして、真ん中にはストゥーパ。
かなり大きなストゥーパです。

後期・大乗仏教期に作られたものなので、ストゥーパに仏像が彫られています。

本尊の両脇に脇侍が彫られている三尊仏です。

表情も穏やかです。


第11窟・第12窟

第11窟と第12窟は、なんと3階建ての僧院。

写真は第12窟。

1階から3階まで、柱が等間隔に並んでいて、まるで、岩肌に3階建てのビルが入っているようです。

ちょうど人がいるので大きさが分かりやすいと思いますが、各階の高さは約4m。

2階と3階にはバルコニーもついています。

12窟はエローラ最大の僧院ということですが、いったい、何人の僧が暮らしていたのでしょうか。

第11窟や第12窟が巨大化したのは、ヒンズー教徒たちが近くで巨大な寺院を造り始めたのに刺激されたからとも言われているようです。

お坊さんたちも、やっぱり競争心とかあるんですね。

エローラで3つの宗教がそれぞれの寺院を造っていたころ、互いの関係はどんな感じだったんでしょうか。


第12窟には多くの仏像も彫られていました。
第6窟の仏像と違って、私たちにも馴染のあるお姿です。






ジャイナ教寺院群

ジャイナ教寺院はエローラで最も南側にあります。
石窟寺院は第30窟から第34窟と数は多くありません。
しかし、美しさはなかなかのものです。

写真は第32窟内部


ジャイナ教というのは、仏教と同時期に、仏教同様にカースト制度を否定するものとして誕生した宗教です。非殺生・非暴力を旨とし、開祖は全てを捨てて全裸・無一物で修行して悟りを得たとされます。このため、ジャイナ教の寺院では全裸の開祖達が彫られることが多く、インドですっぽんぽんの像を見たら、まずジャイナ教と思って間違いないそうです。現在でも、全裸で修行している信者もいるとか。

ジャイナ教の寺院はエローラでは最も遅く9世紀ころに造られ始めました。
最も見事なのが第32窟です。



小さな門から入ると、前庭に祠堂、象の彫刻、柱塔があり、祠堂等を2階建ての石窟寺院がぐるりと囲んでいます。入口は決して広くはありませんが、なかなか内部は充実しています。


下の写真が入ってすぐの祠堂。祠堂の中の開祖像は四体が背中合わせになっている四面像と呼ばれるもの。座禅を組んでいると仏像と違いが分かりずらいですね。

   


象は非殺生というジャイナ教の教えのシンボルなのだそうです。
(確かに草食ですよね)
おまけに富の象徴でもあるのだとか。




ジャイナ教寺院の一番の見どころは内部の繊細なレリーフです。



天井の彫りの見事さ、柱の繊細でありながら豪華なレリーフ。開祖像がシンプルなのに対し、寺院内の装飾は華麗です。

なんでもジャイナ教信者にはお金持ちが多いのだとか。開祖が全裸で修行したりしてたのになぜ?と思いますが、ちゃんと理由があるのだそうです。
まず、ジャイナ教の一般信者は、その戒律の厳しさから農業に従事できません。というのも、農業は畑を耕しているうちに虫を殺してしまうかもしれず、非殺生に反する可能性があるからです。

そこで、非殺生に反することのない商業や貴金属業に従事する信者が多いのですが、彼らは戒律が厳しいことから信用されるので、経済的に成功することが多いのだとか。そのため、開祖は無所有なのに、在家信者はお金持ちという、ちょっと、面白いことになっているのだそうです。

寺院の中に彩色の残っているところもありました。金箔が使われているようにも見えます。今でも綺麗ですが、昔はもっと綺麗だったんでしょうね。




柱の美しさは、本当に目を引きます。

   


2階の外側の装飾。繊細な飾りや象のレリーフ。




1階にある像も見事でした。




品のあるセクシーさが素晴らしい。

   


カイラーサ・ナータ寺院を見るだけではもったいないエローラです。
できればカイラーサ・ナータ寺院以外のヒンズー寺院も見たかった・・。



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参考文献

ユネスコ世界遺産5(講談社)
世界遺産を旅する8(近畿日本ツーリスト)
インド神話入門(新潮社とんぼの本 長谷川明著)

基本的に現地ガイドさんの説明に基づいてまとめています。